【非線形力学領域・垂水 竜一 教授】
跳ねるおもちゃがパチンと鳴る仕組み
-次世代のソフトロボット技術に活用-
・半球状シェル構造が跳躍する仕組みを明らかにしました
・跳躍過程において,基盤との接触状態が跳躍性能の予測に重要であることがわかりました
・接触状態が遷移する様子を捉えることで最大跳躍高さや跳躍条件を予測することに成功しました
・ソフトロボットの構成要素を詳細に解析することで,その性能予測が可能になる事が示唆されます
慶應義塾大学大学院理工学研究科の阿部宝(研究当時修士課程2年),中原行健(博士課程1年),同大学理工学部機械工学科の高橋英俊准教授,石上玄也教授,佐野友彦専任講師,大阪大学大学院基礎工学研究科の橋口勲武(博士課程3年),小林舜典助教,垂水竜一教授らによる研究グループは,薄い半球状のシェル構造が跳躍する仕組みを明らかにしました。
近年,ソフトロボットが開発されていますが,ソフトロボットの挙動は材料特性や環境との複雑な相互作用に影響されるため,性能の予測が困難であり,経験的な設計が必要でした.本研究では,跳躍するおもちゃ(ポッピンアイ)に着想を得て,跳躍ソフトロボットの基本構造の1つである半球状シェル構造の跳躍性能を解明しました.跳躍性能を予測式によって理論的に計算できる本研究成果は,未知環境におけるソフトロボットの設計指針に示唆を与えることが期待されます。本研究は2025年6月9日に国際科学雑誌「Advanced Robotics Research」で公開され,刊行号の裏表紙を飾りました。
詳細は大阪大学ホームページ(ResOU)をご参照ください。
Last Update : 2025/07/02
【生体工学領域・小林 洋 准教授】
人の筋肉を使って複雑な計算ができる!
-ウェアラブルシステムなどへの応用に期待-
・人の生体組織(筋肉)を用いて、複雑な計算ができる
ことを発見
・人の生体組織(筋肉)の変形場を物理リザバコンピュ
ーティング(※1)の中間層として利用できることを
実証
・物理的な計算機が不要で、人の近くのあらゆる場所で
計算処理を提供できることから、ウェアラブルシステ
ムなどハードウェアレスな計算機への応用に期待
大阪大学大学院基礎工学研究科の小林洋准教授は、人の生体組織(筋肉)を利用して複雑な計算が可能であることを世界で初めて明らかにしました。
物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法を「物理リザバコンピューティング」と呼びます。これまで、物理リザバコンピューティングの中間層(リザバ層)として、光学系、力学系、量子系などさまざまなものが利用されてきましたが、人の組織を利用した例はありませんでした。
本研究では、人の生体組織の変形場を物理リザバコンピューティングのリザバ層として利用することを提案し、その実証として複雑な方程式を解くことに成功しました。これらのことは、人の組織が計算能力を有することを示しています。
これらの技術は、人の組織というその場にあるものを利用するため、ハードウェアレスな構成となり、人の近くのあらゆる場所で計算処理を提供できます。将来的に、ウェアラブルシステムなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「IEEE Access」に、2025年3月20日付けで掲載されました。
詳細は大阪大学ホームページ(ResOU)をご参照ください。
【用語説明】
(※1)物理リザバコンピューティング
物理リザバコンピューティングは、物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法です。従来のリザバコンピューティングのアプローチを物理現象に適用したものです。例としては、光学系、力学系、量子系などの物理的なシステムを「中間層(リザバ層)」として活用し、データ処理を行う手法です。物理リザバコンピューティングでは、情報処理は中間層となる物理系が担うため、対象とする計算を行う際、原理的に他の計算機を必要としません。
Last Update : 2025/04/18
【非線形力学領域・垂水 竜一 教授】
編み物の端が丸まるのはなぜか?
-産業応用に向けた新たなデザイン技術の鍵-
慶應義塾大学大学院理工学研究科の田尻琴音(修士課程1年)、同大学理工学部機械工学科の佐野友彦 専任講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の村上立樹(修士課程1年)、小林舜典 助教と垂水竜一 教授らの研究グループは、編み物が自然にカールする現象のメカニズムを実験とシミュレーションを組み合わせて明らかにしました。
最も基本的な編み方のひとつである平編み構造は、曲げられた糸の周期的な格子で構成され、端部では3次元的なカール形状が自然に生じます。編み物の力学特性に関する多くの研究は2次元的なモデル化に基づいており、3次元的な関係性は十分に明らかにされておりませんでした。編み物のカール挙動は、糸に作用する力やモーメント、単一ループ形状、力学的特性、そして摩擦などが複雑に関連しているため、3次元解析が必要となります。そこで、本研究では、編み機を用いて長方形平編み構造に生じる3次元的なカール形状を系統的に作成し、実験とシミュレーションを通じてループ形状と力学特性がカール形状に相関することを示しました。カール形状は編み数比に応じて変化し、ループ形状が編み物の機械的な異方性に影響を与えることが明らかになりました。本研究の結果は、単一ループ形状の変化が、編み物全体の3次元的な自然形状を制御する可能性を有することを示唆しており、編み物を用いた複合材料、ウェアラブルデバイス、アクチュエータなどの産業応用において、より複雑な3次元形状の予測やデザイン・設計技術の発展に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2025年2月25日に英国科学雑誌『Extreme Mechanics Letters』にオンライン掲載されました。
Last Update : 2025/04/18