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研究室だより Vol.27 青井研究室

【生体工学領域・小林 洋 准教授】

人の筋肉を使って複雑な計算ができる!
-ウェアラブルシステムなどへの応用に期待-

・人の生体組織(筋肉)を用いて、複雑な計算ができる
 ことを発見

・人の生体組織(筋肉)の変形場を物理リザバコンピュ
 ーティング(※1)の中間層として利用できることを
 実証

・物理的な計算機が不要で、人の近くのあらゆる場所で
 計算処理を提供できることから、ウェアラブルシステ
 ムなどハードウェアレスな計算機への応用に期待

大阪大学大学院基礎工学研究科の小林洋准教授は、人の生体組織(筋肉)を利用して複雑な計算が可能であることを世界で初めて明らかにしました。

物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法を「物理リザバコンピューティング」と呼びます。これまで、物理リザバコンピューティングの中間層(リザバ層)として、光学系、力学系、量子系などさまざまなものが利用されてきましたが、人の組織を利用した例はありませんでした。

本研究では、人の生体組織の変形場を物理リザバコンピューティングのリザバ層として利用することを提案し、その実証として複雑な方程式を解くことに成功しました。これらのことは、人の組織が計算能力を有することを示しています。

これらの技術は、人の組織というその場にあるものを利用するため、ハードウェアレスな構成となり、人の近くのあらゆる場所で計算処理を提供できます。将来的に、ウェアラブルシステムなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「IEEE Access」に、2025年3月20日付けで掲載されました。

 

詳細は大阪大学ホームページ(ResOU)をご参照ください。

 

【用語説明】
(※1)物理リザバコンピューティング
物理リザバコンピューティングは、物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法です。従来のリザバコンピューティングのアプローチを物理現象に適用したものです。例としては、光学系、力学系、量子系などの物理的なシステムを「中間層(リザバ層)」として活用し、データ処理を行う手法です。物理リザバコンピューティングでは、情報処理は中間層となる物理系が担うため、対象とする計算を行う際、原理的に他の計算機を必要としません。

Last Update : 2025/04/18

研究室だより Vol.26 垂水研究室

【非線形力学領域・垂水 竜一 教授】

編み物の端が丸まるのはなぜか?
-産業応用に向けた新たなデザイン技術の鍵-

慶應義塾大学大学院理工学研究科の田尻琴音(修士課程1年)、同大学理工学部機械工学科の佐野友彦 専任講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の村上立樹(修士課程1年)、小林舜典 助教と垂水竜一 教授らの研究グループは、編み物が自然にカールする現象のメカニズムを実験とシミュレーションを組み合わせて明らかにしました。

最も基本的な編み方のひとつである平編み構造は、曲げられた糸の周期的な格子で構成され、端部では3次元的なカール形状が自然に生じます。編み物の力学特性に関する多くの研究は2次元的なモデル化に基づいており、3次元的な関係性は十分に明らかにされておりませんでした。編み物のカール挙動は、糸に作用する力やモーメント、単一ループ形状、力学的特性、そして摩擦などが複雑に関連しているため、3次元解析が必要となります。そこで、本研究では、編み機を用いて長方形平編み構造に生じる3次元的なカール形状を系統的に作成し、実験とシミュレーションを通じてループ形状と力学特性がカール形状に相関することを示しました。カール形状は編み数比に応じて変化し、ループ形状が編み物の機械的な異方性に影響を与えることが明らかになりました。本研究の結果は、単一ループ形状の変化が、編み物全体の3次元的な自然形状を制御する可能性を有することを示唆しており、編み物を用いた複合材料、ウェアラブルデバイス、アクチュエータなどの産業応用において、より複雑な3次元形状の予測やデザイン・設計技術の発展に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2025年2月25日に英国科学雑誌『Extreme Mechanics Letters』にオンライン掲載されました。

Last Update : 2025/04/18

研究室だより Vol.25 垂水研究室

【非線形力学領域・垂水 竜一 教授】

材料科学と電磁気学の共通法則を発見
-柔らかい幾何学を用いた材料科学の新しい理論-

・結晶材料の欠陥(転位(※1))が生み出す歪みのパタ
 ーンは、電流の周りに作られる磁場と同じ方程式に従う
 ことを発見

・電流の磁場を説明するビオ・サバールの法則を材料科学
 へ応用することで、転位による塑性変形の歪みのパター
 ンを解析的に決定することができる

・全ての結晶材料の強度や延性を記述するための基礎理論
 として、広範な応用が期待される

大阪大学大学院基礎工学研究科 小林舜典助教、垂水竜一教授らの研究グループは、結晶の中にある「転位」という欠陥が生み出す結晶格子の歪みのパターンが、電流が作り出す磁場のパターンと同型になることを発見しました。

転位は、結晶材料の強度と柔軟性を決める重要な欠陥の一つですが、その力学的な性質に関する理論研究は十分進んでおらず、多くの研究課題が残されていました。

今回、研究グループでは、①転位の周りに作られる塑性変形(物体に外力を加えて変形させ、その後、外力を取り去っても残る変形)による歪みのパターン(カルタン方程式)が、定常電流の周りに作られる静磁場のパターン(アンペール・ガウス方程式)と一致すること、そのため②アンペール・ガウス方程式の解であり、電流の磁場を説明するビオ・サバールの法則が、カルタン方程式の解として転位の歪みのパターンにも適用できること、③この性質が図に示す3種類のすべての転位に対して成り立つこと、を示しました。またこれらの結果が、④複素関数論におけるコーシー・リーマン方程式と一致することも示しました。これらの結果から、⑤結晶の欠陥と電磁気学という異なる物理現象が、同じ数学的な原理に基づいていることがわかりました。この背後には、等角写像と呼ばれる機構が深く関わっていることを結論付けました。

本研究成果は、2025年3月5日(水)0時5分(グリニッジ標準時)、日本時間2025年3月5日(水)9時5分に英国王立協会誌「Royal Society Open Science」より公開されました。


詳細は大阪大学ホームページ(ResOU)をご参照ください。

 

【用語説明】
(※1)転位
結晶に見られる原子配列の乱れの一種。結晶の塑性変形は、特定の結晶面の間の相対的なすべり運動によって生じるが、すべりを起こした領域と未すべりの領域の境界線を転位と呼ぶ。すべり面上に伸びた一次元曲線形状を有しており、数学的にはトポロジカル欠陥の一種と考えることができる。

Last Update : 2025/04/18