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研究室だより Vol.12 和田研究室

生体工学領域 生体機械科学講座 バイオメカニクスグループ

医学と工学をむすぶ生体力学シミュレーション

教授・和田成生、講師・越山顕一朗、特任准教授・伊井仁志

kentayori_v12 当研究室では、生体計測と様々な計算力学シミュレーションを組み合わせて、細胞から組織、器官に至る生体のマルチスケールな物理現象とそれに関わる生物 現象を統合的に理解する研究を行っています。これにより、生体の機能発現の基礎となる力学特性だけでなく、生体特有の力学的適応現象やリモデリングのメカ ニズムの解明を目指しています。また、得られた知見をもとに、病気の診断や治療、進行予測に生体力学シミュレーションを活用する新しい医療支援システムの開発を行っています。
 今回紹介するのは、血液の主成分である“赤血球”の膜破断に関する分子シミュレーション研究です。赤血球は心臓を出発して肺で酸素を獲得して心臓に戻り、次に全身を回って酸素を体の至る所に輸送して心臓に戻り,再び肺へと出発する循環をしています。赤血球の通過する血管は狭いところではそのサイズよりも小さく、また循環中に血流は様々に変化します.このため,循環中に赤血球は様々な力学的負荷 (つぶされたり、ひっぱられたり)を受けます。時には、過度な力学的負荷によって赤血球を覆う膜が破れて内容物がでてしまう“溶血”が生じます。溶血は、特に弱くなった心臓の働きを補助するための医工学技術の一つである補助人工心臓ポンプの設計において問題となります。しかし、溶血はナノ(10-9)メートルサイズの膜のナノ秒での構造変化を伴うため、通常の実験装置などでは観察することができません。そこで、我々は膜の構造変化を分子レベルで追うことが可能な生体膜分子動力学シミュレーションを利用して研究を進めています。最新の研究では、赤血球膜の主成分の一つであるコレステロールが力学的負荷下での膜構造変化に与える影響を分子レベルで詳細に明らかにしています(図参照)。

図:力学負荷前後のコレステロールを含む生体膜分子モデルの側面図。力学負荷によって二重層構造から組み込み一重層構造への相転移が観察される。

和田研究室
https://sites.google.com/site/biomechwadalab/

参考論文
http://www.nature.com/articles/srep15369

Last Update : 2016/04/26

研究室だより Vol.11 宮崎研究室

機能デザイン領域 制御生産情報講座 ロボティクス・メカトロニクスグループ

ロボット工学の観点から人間を科学し、人間を支援する

教授・宮崎 文夫、講師・平井 宏明、助教・植村 充典

 宮崎研究室では、人間とロボットの関係を考察し、両者の融合する過程を通して、人間の能力を拡大するシステムの構築を目指しています。現在、人間とロボッ トのインタラクションタイプに応じて多角的に研究を進めることで、人間を理解し、支援するための方法論の確立を行っています。
 医学・生理学、人間工学、スポーkentayori_v11ツ科学等の人間を対象とした隣接分野から得られる断片的な知見や仮説を元に、近年、2つのロボットシステムを開発しました。
 図 (a) に示したのは、人間の運動学習を支援する力覚提示ロボットです。人間の運動スキルを定量評価し、運動改善のための具体的な教示を行います。
 一方、図 (b) に示したのは、人間の身体構造を模擬した筋骨格ロボットです。運動支援の対象である人間の運動制御の解明へ向けて、ロボット工学の立場からアプローチするのに役立ちます。
 この他にも、当研究室では、装具ロボットをはじめ、人間を支援するさまざまな研究テーマに取り組んでいます。詳細は下記の宮崎研ホームページを参照してください。

宮崎研究室
http://robotics.me.es.osaka-u.ac.jp/MiyazakiLab/

Last Update : 2016/03/22

研究室だより Vol.10 後藤研究室

非線形力学領域 熱流体力学講座 流体力学グループ

流れによる輸送

教授・後藤晋、准教授・吉永隆夫、助教・渡邉陽介

 たとえばコーヒーに砂糖を溶かすとき、じっと待っているよりも、スプーンでかき混ぜた方がずっと速く溶けます。これは、分子運動による砂糖の拡散に比べて、流れによる移流の方が(とくに長距離の輸送に関して)効率がよいからです。このように、流れ、とくに乱れた流れ(乱流)による輸送や混合が強力であることは直感的には明らかですが、どのようなメカニズムで、この強い輸送や混合が維持されているのかは必ずしも明らかではありません。
kentayori_v10 そこで、我々のグループではスーパーコンピュータを用いた大規模な数値シミュレーション(右の図を参照)や室内実験を用いて、この複雑現象の解明に取り組んでいます。とくに、21世紀に入って「地球シミュレーター」や「京コンピュータ」に代表される国内の優れたスーパーコンピュータの出現により、乱流の研究は新しい時代を迎えました。つまり、実験室で実現されるのと同程度かそれ以上に発達した(高いレイノルズ数の)乱流がコンピュータ上でシミュレート可能になったからです。
 数値シミュレーションによれば、流れの詳細な3次元構造とその運動を正確に捉えることができます。私たちはこのメリットを最大限に活かして、輸送現象の本質を解き明かしました。乱流は、大小さまざまな渦の集合です。たとえば、右の図中には3つの異なる色で、異なる大きさの「渦」を可視化しています。具体的には、赤色が一番大きなスケールの渦、黄色が中間スケールの渦、青色が小さなスケールの渦を表します。このような可視化により、乱れた流れの中にも秩序立った渦が存在いることが分かります。しかも、これらを注意深く観察・解析すると、各スケールの階層で、これらの渦は互いに反対まわりに旋回するもの同士が近接して存在するという性質があることが分かりました。いわば、乱流中には、台所で使う「ハンドミキサー」、しかも大小さまざまなハンドミキサーが共存していることになります。これが、乱流が強い混合や輸送を生み出すメカニズムです。私たちは、この知見を活かした応用研究にも取り組んでいます。

流体力学グループ
http://fm.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2016/02/10