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研究室だより Vol.15 出口研究室

生体工学領域 生体計測学講座 分子生体計測グループ

細胞が力を感知するメカニズム

−力学環境に依存した細胞機能の謎を解く−

出口研究室

 私たちの体を構成する細胞の機能は「力学環境」に依存して調節されています。
ここで言う力学環境とは、例えば細胞が存在する場所の硬さや3次元微細形状が挙げられます。これらの細胞周囲の力学的な要素から影響を受けて、細胞は形態や構造を変え、かつ細胞機能を担うタンパク質シグナル伝達や、ひいては遺伝子発現が変わります。私たちのグループでは力学解析・計測と分子生物学技術の併用を主たる研究手法として、力学環境の変化に起因する物理的な力の負荷を細胞が感じ取るメカニズム(背後にある物理メカニズム、および責任分子の同定とその活性化メカニズム)の解明に取り組んでいます。

 細胞が力を感知するメカニズムの一つとして、「細胞内収縮力の“設定値”の変化」があります。増殖能を有した多くの細胞種は常に収縮力、つまり自ら縮まろうとする力を発生し続けています。興味深いことに、この収縮力は細胞種ごとにレベルの定まった設定値があります。力学環境の変化に基づき細胞に外力が作用すると、それは細胞というシステムにとっては外乱としてはたらき、細胞内収縮力は元々の設定値からのずれが生じます。細胞はこのずれ、ひいては負荷された外力を感知し、変動の原因となった周囲の力学環境に適応すべく機能的・構造的応答を起こします。

 最近、私たちはこの細胞内収縮力を可視化・定量評価できる技術を開発しました。写真は培養細胞が集団運動を行うときの、個々の細胞内における収縮力の変化を解析したものです。この技術(細胞収縮力アッセイまたはトラクションフォースマイクロスコピーと呼んでいます)を基礎とし、現在はどの遺伝子・タンパク質がどのようにこの細胞内在性力学量の設定値の調節に関与しているかを調べています。また、これらの現象を制御する化合物のスクリーニングに基づく創薬研究にも取り組んでいます。

出口研究室
http://mbm.me.es.osaka-u.ac.jp

Last Update : 2017/03/16

研究室だより Vol.14 尾方研究室

機能デザイン領域 制御生産情報講座 数理固体力学グループ

金属ガラスの構造若返り現象の解明と制御に成功

脆くなったガラスや磁気特性が変化したガラスを回復させる

尾方研究室

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 金属ガラスは長周期規則構造(原子が規則的にならんだ結晶構造)をもたないランダムに近い原子配列構造を有する金属材料で、高強度、高硬度で広い弾性変形領域と極めてたわみやすい性質をもった特異な金属材料です。また200~400℃程度の比較的低温で水飴のように粘性流動を示すことから、原子レベルでの平滑性をもった精密成形加工が可能であるという特徴も有しています。このような優れた特性から、次世代のスマートフォン等の小型電子端末分野等のケーシング、タッチセンサー、スイッチング、特殊ネジ材料などへの適用が期待されています。

 しかしながら、このような金属ガラスでは、低温での熱履歴や成型加工等によってばらばらに配列した原子が構造緩和し、一部再配列することで脆化するということが問題となっていました。この構造緩和現象はエネルギー的に安定な方向への変化であるため、一旦緩和して脆化した金属ガラスは自発的には元に戻すことはできず、再溶解して一から作り直すしかないと考えられていました。また構造緩和は脆化等の劇的な特性変化をもたらすにもかかわらず、目視はもとより一般的な構造解析(X線回折等)や超音波探傷でも検知することができない微細な現象でした。

 研究グループでは、一旦緩和させて脆化した金属ガラスをガラス構造特有の粘性流動が発現する温度(ガラス遷移温度とよばれ、通常融点の半分程度の温度)直上で極短時間熱処理した後、再度急冷することによって、そのガラス構造を延性に富んだ未緩和構造に逆戻りさせる現象(これを構造若返り現象と呼びます)を実験的に示しました。そして、その現象が起きる機構と条件を分子動力学シミュレーションによって理論的に説明し、その制御指針を構築することに成功しました。

Ref.[1] M.Wakeda, et al., Scientific Reports, 5 (2015), 10545.

  [2]N.Miyazaki, et al., npj Computational Materials 2 (2016), 16013.

尾方研究室
http://tsme.me.es.osaka-u.ac.jp/jp/index.html

Last Update : 2017/02/14

研究室だより Vol.13 平尾研究室

非線形力学領域 材料構造工学講座 固体力学グループ

0.1mm以下の微小な欠陥を検出する非接触電磁超音波センサ

教授:平尾雅彦、准教授:荻博次、特任助教:長久保白

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 原子力発電所や化学プラントでは耐腐食性に優れていることからステンレス鋼が配管などで使われています。ところが、長期にわたって運用していると配管内面の溶接部近傍に応力腐食割れと呼ばれる割れが発生することがあります。このような割れは配管の破断等の深刻な事故につながる恐れがあるため、微小な割れをできるだけ早期に発見する技術が必要になります。

 割れの検査にはしばしば超音波が使われます。配管の外側から内側に向けて超音波を入射すると、内面の割れで超音波が散乱・反射されるので、反射・散乱した超音波を測定して割れの有無や大きさを推定します。この検査では一般に圧電体を使った超音波センサが利用されます。振動するセンサを接触媒質を介して配管に押し付けて超音波を伝えますが、押し付け強さなど検査員の技量によって結果が変わることがありました。この問題を解決するべく、我々の研究室では点集束型の電磁超音波センサを開発しました。これは電磁気的な作用を利用して試験体の表面を振動させる非接触のセンサであり、試験体への押し付け方に影響を受けません。また、超音波は材料中を広がりながら伝ぱするため、伝ぱ距離が長くなるほど音圧が小さくなりますが、開発したセンサでは複数の音源から超音波を発生させ、それを材料内部の一点(焦点)で収束させることで音圧の低下を防いでいます。さらに点集束の効果で焦点付近での空間分解能が高められています。結果として、割れの検査をしたことがない人であっても再現性良く割れの検査ができるようになり、深さが0.05mmの人工欠陥も有意に検出することに成功しました。このように、非破壊検査の分野に貢献する超音波センサの開発に取り組んでいます。

平尾研究室
http://www-ndc.me.es.osaka-u.ac.jp/pmwiki/pmwiki.php

Last Update : 2017/01/06