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研究室だより Vol.6 河原研究室

非線形力学領域 熱流体力学講座 熱工学グループ

乱流の骨格
―単純不変解による乱流へのアプローチ―

教授・河原 源太

水や空気などの流体の運動状態は層流と乱流に大別されます。乱流状態では時間的にも空間的にも流れは複雑に乱れ、同じ運動が繰り返されることはありません。水道の蛇口から勢いよく流れ出す水流や煙突から立ち上る煙の渦運動など、日常生活で目にする流れのほとんどは乱流です。

乱流の問題は物理学における未解決の難問のひとつとして広く知られており、その解明は理学的にも工学的にも重要な意義をもちます。乱流が難問とされる理由はいくつかありますが、なかでも、乱流の示す複雑でカオス的な時空間構造の本質をいかにして簡潔に表現するか、は大きな課題です。

最近、我々は、この問題の解決に向け、独自の理論的アプローチを試みています。それは、乱流を支配する運動方程式であるナビエ・ストークス方程式の単純な不変解を用いて、乱流の構造や統計的性質を表現しようとするものです。

単純不変解とは、時間的に変化しない定常解や、同じ運動が繰り返される周期解といった解であり、複雑で多様な乱流に比べ、はるかに簡潔です。この不変解を用いれば、乱流中に隠された単純で秩序をもつ構造やその乱流統計量との関連性を運動方程式に忠実に表すことができます。

単純不変解の一例を図(上)に示します。これは、断面が正方形であるダクトに沿って圧力差で駆動される流れの定常(進行波)解です。図中に赤と青で示した渦構造がダクトの軸に垂直な流れを誘導し(ベクトル線図)、軸方向の速度成分の分布(緑の等値面)を歪ませます。この不変解は、図(下)に示す正方形ダクト乱流の平均速度分布の特徴をうまく再現しています。

単純不変解は、乱流よりもはるかに単純であるにも拘わらず、その時空間構造や統計的性質をよく再現するという意味で、「乱流の骨格」をなすと言えるでしょう。現在、我々はこの乱流の骨格を用いて、乱流の解明と制御に取り組んでいます。

河原研究室ホームページ http://www-thermomech.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2015/05/13

研究室だより vol.5 流体力学研究室

非線形力学領域 熱流体力学講座 流体力学グループ

液体ジェットの崩壊メカニズムの解明と
微細ファイバー・微小液滴形成への応用

准教授・吉永隆夫,助教・渡邉陽介,清水大

日常よく目にする水道蛇口から滴り落ちる流れは,水量を増やすと下流で乱れのある,長く伸びた流れに変わる.この液体ジェットにおける二つの流れの様子は,それぞれドリッピングモードとジェッティングモードと呼ばれている.

いずれの場合も表面張力の働きにより,流れは不安定化し最後は液滴になる.このような流れの理論的な研究が19世紀にレイリーにより始められて以来,ジェットの大変形を考慮した崩壊から液滴形成に至る詳しい研究が実験・理論の両面から行われてきた.

近年,医薬,化粧品,繊維などの工業分野において,微細ファイバーや微小粒子の需要が高まっている.そのような状況下で,従来の化学重合反応を用いた製品に比べて,液体ジェットの不安定性を用いる手法により,より均一で微細なファイバーや粒子の形成が可能であることがわかってきた.特に,数十ナノから数百マイクロオーダの微細ファイバーや微小粒子の形成に,静電場を用いる手法が注目されている.エレクトロスピニングやエレクトロスプレーと呼ばれるこの手法では,ノズルと電極間に数キロボルトの高電圧をかけ,液体ジェット表面に帯電した電荷の反発力や外部電場による静電力を利用する.

これまで実用化を目的とした実験的研究が主に行われてきたが,多くのパラメータを含むこの複雑な現象を理解するため,電気伝導性の流体力学の立場から,ジェットの安定性や崩壊過程などの基本的な特性の理論的な研究が不可欠である.

最近,我々のグループで行われた解析では,静電場中でのジェットを記述する比較的簡単な非線形方程式が導出され,ジェットの崩壊モードが二つの無次元パラメータで支配されることがわかった.図は,軸対称なジェットの崩壊形状が,パラメータの変化により,先端部に液滴を伴う(a)流体ジェッティングモードから,(b)先端部にマイクロドロップを伴うコーンジェットモードを経て,(c)マイクロドロップを伴わないコーンジェットモードへと遷移する様子を示している.

流体力学研究室ホームページ(http://mars.me.es.osaka-u.ac.jp/)

Last Update : 2014/08/26

研究室だより vol.4 川野研究室

機能デザイン領域 分子流体力学グループ 川野研究室

分子流・プラズマ流の数理と応用
―ナノデバイスから医療応用まで―

教授  川野 聡恭,准教授  土井 謙太郎,助教  花﨑 逸雄,助教 辻 徹郎

電子・イオン・分子の運動やプラズマ流(電離気体流)における数理物理的普遍性の究明と先端工業 技術への応用に関する研究を行っています. 従来の流体力学理論の枠組みでは取り扱うことが困難であったマイクロ・ナノスケールの荷電粒子流および分子の特異的な集団挙動を理論と実験の両面から探究します.これらの基礎的知見と数理解析技術を融合し,環境エネルギー関連機器や微小医療デバイスの設計指針を確立することによって,学術のさらなる深化と 直接的な社会貢献を目指します.

ナノ流路内における一分子観察

近年,DNAの塩基配列を短時間低コストで解読するDNAシーケンサの開発に注目が集まっています.将来は,個人レベルでのDNAの解析が行われ医療などへ応用されることが期待されています.当研究室では,このDNAの次世代解析技術につながる,微小構造内における高分子の一分子計測を行っています。 当研究室ではMEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれる、微小構造物の作成技術を用いて,深さが数百nmのナノ流路を作成しました.この流路内にλDNAを流入し,電圧を印加すると電気泳動する様子が蛍光顕微鏡によって観察されました。λDNAは,流路壁面による拘束を受け、流動速度が減少することが確認されました.さらに拘束による影響は,流路の深さが狭いほど顕著に現れることが確認されました.単一分子を取り扱うデバイスにおいては,このような微小空間内で高分子流動の解析が有用であると考えられます.

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図 蛍光可視化観察によるλDNA

川野研究室ホームページ http://bnf.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2013/08/27