非線形力学領域 熱流体力学講座 流体力学グループ
流れによる輸送
教授・後藤晋、准教授・吉永隆夫、助教・渡邉陽介
たとえばコーヒーに砂糖を溶かすとき、じっと待っているよりも、スプーンでかき混ぜた方がずっと速く溶けます。これは、分子運動による砂糖の拡散に比べて、流れによる移流の方が(とくに長距離の輸送に関して)効率がよいからです。このように、流れ、とくに乱れた流れ(乱流)による輸送や混合が強力であることは直感的には明らかですが、どのようなメカニズムで、この強い輸送や混合が維持されているのかは必ずしも明らかではありません。 そこで、我々のグループではスーパーコンピュータを用いた大規模な数値シミュレーション(右の図を参照)や室内実験を用いて、この複雑現象の解明に取り組んでいます。とくに、21世紀に入って「地球シミュレーター」や「京コンピュータ」に代表される国内の優れたスーパーコンピュータの出現により、乱流の研究は新しい時代を迎えました。つまり、実験室で実現されるのと同程度かそれ以上に発達した(高いレイノルズ数の)乱流がコンピュータ上でシミュレート可能になったからです。
数値シミュレーションによれば、流れの詳細な3次元構造とその運動を正確に捉えることができます。私たちはこのメリットを最大限に活かして、輸送現象の本質を解き明かしました。乱流は、大小さまざまな渦の集合です。たとえば、右の図中には3つの異なる色で、異なる大きさの「渦」を可視化しています。具体的には、赤色が一番大きなスケールの渦、黄色が中間スケールの渦、青色が小さなスケールの渦を表します。このような可視化により、乱れた流れの中にも秩序立った渦が存在いることが分かります。しかも、これらを注意深く観察・解析すると、各スケールの階層で、これらの渦は互いに反対まわりに旋回するもの同士が近接して存在するという性質があることが分かりました。いわば、乱流中には、台所で使う「ハンドミキサー」、しかも大小さまざまなハンドミキサーが共存していることになります。これが、乱流が強い混合や輸送を生み出すメカニズムです。私たちは、この知見を活かした応用研究にも取り組んでいます。
流体力学グループ
http://fm.me.es.osaka-u.ac.jp/
Last Update : 2016/02/10
機能デザイン領域 推進工学講座 流体工学グループ
気液界面を有する流れの研究
教授・杉山 和靖,准教授・堀口 祐憲,助教・米澤 宏一
液体の流れの中では,流れ方に応じて圧力に分布ができます.圧力が飽和蒸気圧よりも低くなると,気泡が発生します.この現象をキャビテーションと呼びます.キャビテーションは,高速で運転される流体機械,装置で発生し,性能劣化,振動・騒音,壊食の原因となります.キャビテーションは,19世紀末に発見されて以来,多くの研究者によって研究されてきましたが,未だ,予測が極めて難しい現象です.理由には,(i) 分子スケール (nm) から,気泡のスケール (μm~mm),機器のスケール (mm~m) に至るまで,多重のスケールの動力学が関係すること,(ii) 気液の混在する多相流れであり,キャビティ界面が複雑に変形することが挙げられます.特に後者に関して,泡だらけな状態 (図(a)) になると,流れ方が変わり,機械/装置に働く流体力が変わります.その結果,設計どおりの性能が発揮できなくなるばかりでなく,望まない振動を引き起こし,危険な状態に至る場合があります.安全面での想定外を無くすには,事前に現象を忠実に,包括的に捉えること,さらに,現象の本質を引き出し,単純化したモデルを築くことが重要です.そうすることで初めて,問題を理解し,問題に取り組むことにつながるからです.私たちは,例えば,翼面キャビテーションの動特性に着目し,流量変動に対するキャビティ界面の応答などを,実験や数値シミュレーションによって調べています.
液中の気泡は,害になるばかりでなく,有益な特性を示す場合があります.特に,径の小さなマイクロバブルには,超音波医療画像の鮮明化を実現するセンサ機能や,音響エネルギの集束や乱流の抑制・促進を実現するアクチュエータ機能があります.私たちは,複雑な界面運動を予測する計算手法 (図(b)) を開発するとともに,マイクロバブル流れの機能を上手く使いこなすための研究にも取り組んでいます.
図(a): インデューサに生じるキャビテーションの実験.図(b): チャネル内気泡流
Last Update : 2015/08/17
非線形力学領域 材料構造工学講座 材料・構造強度学グループ
破壊に伴って固体材料から放出されるガス元素の動的可視化
~質量分析計と高速度マイクロスコープを備えた超高真空材料試験装置の新開発~
教授 小林秀敏,准教授 堀川敬太郎,助教 谷垣健一
当研究室では、固体材料が環境から水素を吸蔵した際の材料の破壊現象を明らかにする研究を行っています。現在、将来的な化石燃料の枯渇にも対応できるように、燃料電池などに代表されるように、水素エネルギーを有効に活用する手法の開発が国内外で行われています。水素を貯蔵・運搬したりする部品材料には、金属材料が広く用いられております。ところが、金属材料は水素が吸蔵されると、材料の種類によって程度の違いはあるものの、壊れやすくなる(もろくなる)性質があります(水素脆化現象)。したがって、水素エネルギーシステムを将来的に構築するためには、現段階から材料が水素と接触した場合に、材料特性がどのように低下するか、あるいはその特性低下を防ぐ対策を確立させておくことが重要です。水素は全原子の中でも最もサイズが小さく、また固体の中での移動(拡散)が速く、影響を与えうる水素自体は僅かの量(ppmオーダー以下)である、ことなどもあって、水素脆化現象を生じさせている時の水素の挙動を明らかにすることがこれまで困難となっておりました。本研究では、その未解明の部分を明らかにすることを目的として、水素脆化現象が生じた際の水素放出と組織変化を可視化できる世界唯一の材料試験装置を新たに開発しました(図1)。この装置は超高真空環境(10-8 Pa)の中で金属材料を引張変形・破断する際に放出されるガス元素を高感度の四重極質量分析計で高速で検出(質量数1~400を1秒)しながら、材料表面の損傷をマイクロスコープで高速サンプリング(写真コマ数2000枚を1秒)することができます。破壊時の水素関連ガス放出の情報と材料損傷の組織変化の情報を同期させることが可能になりました。この装置を用いることで、環境から取り込まれた水素原子が材料組織の中でどの場所にどの程度の量集積することで水素脆化を生じさせているか、といった、これまで未解明の部分が判り始めています。
材料・構造強度学研究室 http://fracmech.me.es.osaka-u.ac.jp/
Last Update : 2015/07/14