機能デザイン領域 分子流体力学グループ 川野研究室
マイクロ・ナノ空間におけるイオン流動現象
教授・川野聡恭,准教授・土井謙太郎,助教・花﨑逸雄,助教・辻徹郎
陽イオンと陰イオンが電極間を移動することによりエネルギーが生み出される原理は,身近なところでは電池としてよく知られています.近年,微細加工技術の発展により,マイクロ・ナノスケールにおけるイオン流動現象を利用した電池やキャパシタの開発が盛んに行われています.微小空間において無駄の少ないイオン輸送を実現することにより,高エネルギー密度やジュール発熱の抑制が実現され,低消費電力デバイスへの応用が期待されます.
我々は,電解質溶液におけるイオンの振る舞いを分子流体力学の立場から眺め,非平衡のイオン流動現象を理論と実験の両面から研究しています.たとえば,右上図に示すように,微小な対電極が設置された液溜めを塩化ナトリウム水溶液で満たし,そこに電圧を印加すると過渡的なイオン電流の応答が見られます.微小電極を用いることで非常に微弱な応答を検出することも可能です.理論的には,電極に電位差が生じた瞬間にその近傍にあるイオンが応答して電極表面を遮蔽するとともに,電場の変化に追従して広範囲にイオンの平衡分布が乱されるためだと考えられます.右下図に示すように,ノイズを含むイオンの応答特性が理論モデルにより再現され,電圧印加直後の電極表面の遮蔽による急峻なイオン電流の立ち上がりと,引き続く広範囲の応答による緩やかな減衰が見られます.この結果は,現実の時空間スケールをよく説明しています.
他方で,一分子を計測する技術が飛躍的に発展してきており,微小電極を用いてDNA(デオキシリボ核酸)の塩基分子を識別しようといった研究が進められていますが,そこにも我々の研究成果が貢献しています.
研究内容の詳細やその他の研究テーマについての説明は当研究室のホームページをご覧ください.
川野研究室ホームページ http://bnf.me.es.osaka-u.ac.jp/
Last Update : 2015/06/15
非線形力学領域 熱流体力学講座 熱工学グループ
乱流の骨格
―単純不変解による乱流へのアプローチ―
教授・河原 源太
水や空気などの流体の運動状態は層流と乱流に大別されます。乱流状態では時間的にも空間的にも流れは複雑に乱れ、同じ運動が繰り返されることはありません。水道の蛇口から勢いよく流れ出す水流や煙突から立ち上る煙の渦運動など、日常生活で目にする流れのほとんどは乱流です。
乱流の問題は物理学における未解決の難問のひとつとして広く知られており、その解明は理学的にも工学的にも重要な意義をもちます。乱流が難問とされる理由はいくつかありますが、なかでも、乱流の示す複雑でカオス的な時空間構造の本質をいかにして簡潔に表現するか、は大きな課題です。
最近、我々は、この問題の解決に向け、独自の理論的アプローチを試みています。それは、乱流を支配する運動方程式であるナビエ・ストークス方程式の単純な不変解を用いて、乱流の構造や統計的性質を表現しようとするものです。
単純不変解とは、時間的に変化しない定常解や、同じ運動が繰り返される周期解といった解であり、複雑で多様な乱流に比べ、はるかに簡潔です。この不変解を用いれば、乱流中に隠された単純で秩序をもつ構造やその乱流統計量との関連性を運動方程式に忠実に表すことができます。
単純不変解の一例を図(上)に示します。これは、断面が正方形であるダクトに沿って圧力差で駆動される流れの定常(進行波)解です。図中に赤と青で示した渦構造がダクトの軸に垂直な流れを誘導し(ベクトル線図)、軸方向の速度成分の分布(緑の等値面)を歪ませます。この不変解は、図(下)に示す正方形ダクト乱流の平均速度分布の特徴をうまく再現しています。
単純不変解は、乱流よりもはるかに単純であるにも拘わらず、その時空間構造や統計的性質をよく再現するという意味で、「乱流の骨格」をなすと言えるでしょう。現在、我々はこの乱流の骨格を用いて、乱流の解明と制御に取り組んでいます。
河原研究室ホームページ http://www-thermomech.me.es.osaka-u.ac.jp/Last Update : 2015/05/13
非線形力学領域 熱流体力学講座 流体力学グループ
液体ジェットの崩壊メカニズムの解明と
微細ファイバー・微小液滴形成への応用
准教授・吉永隆夫,助教・渡邉陽介,清水大
日常よく目にする水道蛇口から滴り落ちる流れは,水量を増やすと下流で乱れのある,長く伸びた流れに変わる.この液体ジェットにおける二つの流れの様子は,それぞれドリッピングモードとジェッティングモードと呼ばれている.
いずれの場合も表面張力の働きにより,流れは不安定化し最後は液滴になる.このような流れの理論的な研究が19世紀にレイリーにより始められて以来,ジェットの大変形を考慮した崩壊から液滴形成に至る詳しい研究が実験・理論の両面から行われてきた.
近年,医薬,化粧品,繊維などの工業分野において,微細ファイバーや微小粒子の需要が高まっている.そのような状況下で,従来の化学重合反応を用いた製品に比べて,液体ジェットの不安定性を用いる手法により,より均一で微細なファイバーや粒子の形成が可能であることがわかってきた.特に,数十ナノから数百マイクロオーダの微細ファイバーや微小粒子の形成に,静電場を用いる手法が注目されている.エレクトロスピニングやエレクトロスプレーと呼ばれるこの手法では,ノズルと電極間に数キロボルトの高電圧をかけ,液体ジェット表面に帯電した電荷の反発力や外部電場による静電力を利用する.
これまで実用化を目的とした実験的研究が主に行われてきたが,多くのパラメータを含むこの複雑な現象を理解するため,電気伝導性の流体力学の立場から,ジェットの安定性や崩壊過程などの基本的な特性の理論的な研究が不可欠である.
最近,我々のグループで行われた解析では,静電場中でのジェットを記述する比較的簡単な非線形方程式が導出され,ジェットの崩壊モードが二つの無次元パラメータで支配されることがわかった.図は,軸対称なジェットの崩壊形状が,パラメータの変化により,先端部に液滴を伴う(a)流体ジェッティングモードから,(b)先端部にマイクロドロップを伴うコーンジェットモードを経て,(c)マイクロドロップを伴わないコーンジェットモードへと遷移する様子を示している.
流体力学研究室ホームページ(http://mars.me.es.osaka-u.ac.jp/)
Last Update : 2014/08/26