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研究室だより Vol.8 小林研究室

非線形力学領域 材料構造工学講座 材料・構造強度学グループ

破壊に伴って固体材料から放出されるガス元素の動的可視化
~質量分析計と高速度マイクロスコープを備えた超高真空材料試験装置の新開発~

教授 小林秀敏,准教授 堀川敬太郎,助教 谷垣健一

当研究室では、固体材料が環境から水素を吸蔵した際の材料の破壊現象を明らかにする研究を行っています。現在、将来的な化石燃料の枯渇にも対応できるように、燃料電池などに代表されるように、水素エネルギーを有効に活用する手法の開発が国内外で行われています。水素を貯蔵・運搬したりする部品材料には、金属材料が広く用いられております。ところが、金属材料は水素が吸蔵されると、材料の種類によって程度の違いはあるものの、壊れやすくなる(もろくなる)性質があります(水素脆化現象)。したがって、水素エネルギーシステムを将来的に構築するためには、現段階から材料が水素と接触した場合に、材料特性がどのように低下するか、あるいはその特性低下を防ぐ対策を確立させておくことが重要です。水素は全原子の中でも最もサイズが小さく、また固体の中での移動(拡散)が速く、影響を与えうる水素自体は僅かの量(ppmオーダー以下)である、ことなどもあって、水素脆化現象を生じさせている時の水素の挙動を明らかにすることがこれまで困難となっておりました。kentayori_v08本研究では、その未解明の部分を明らかにすることを目的として、水素脆化現象が生じた際の水素放出と組織変化を可視化できる世界唯一の材料試験装置を新たに開発しました(図1)。この装置は超高真空環境(10-8 Pa)の中で金属材料を引張変形・破断する際に放出されるガス元素を高感度の四重極質量分析計で高速で検出(質量数1~400を1秒)しながら、材料表面の損傷をマイクロスコープで高速サンプリング(写真コマ数2000枚を1秒)することができます。破壊時の水素関連ガス放出の情報と材料損傷の組織変化の情報を同期させることが可能になりました。この装置を用いることで、環境から取り込まれた水素原子が材料組織の中でどの場所にどの程度の量集積することで水素脆化を生じさせているか、といった、これまで未解明の部分が判り始めています。

材料・構造強度学研究室 http://fracmech.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2015/07/14

研究室だより Vol.7 川野研究室

機能デザイン領域 分子流体力学グループ 川野研究室

マイクロ・ナノ空間におけるイオン流動現象

教授・川野聡恭,准教授・土井謙太郎,助教・花﨑逸雄,助教・辻徹郎

陽イオンと陰イオンが電極間を移動することによりエネルギーが生み出される原理は,身近なところでは電池としてよく知られています.近年,微細加工技術の発展により,マイクロ・ナノスケールにおけるイオン流動現象を利用した電池やキャパシタの開発が盛んに行われています.微小空間において無駄の少ないイオン輸送を実現することにより,高エネルギー密度やジュール発熱の抑制が実現され,低消費電力デバイスへの応用が期待されます.

kentayori_v07

我々は,電解質溶液におけるイオンの振る舞いを分子流体力学の立場から眺め,非平衡のイオン流動現象を理論と実験の両面から研究しています.たとえば,右上図に示すように,微小な対電極が設置された液溜めを塩化ナトリウム水溶液で満たし,そこに電圧を印加すると過渡的なイオン電流の応答が見られます.微小電極を用いることで非常に微弱な応答を検出することも可能です.理論的には,電極に電位差が生じた瞬間にその近傍にあるイオンが応答して電極表面を遮蔽するとともに,電場の変化に追従して広範囲にイオンの平衡分布が乱されるためだと考えられます.右下図に示すように,ノイズを含むイオンの応答特性が理論モデルにより再現され,電圧印加直後の電極表面の遮蔽による急峻なイオン電流の立ち上がりと,引き続く広範囲の応答による緩やかな減衰が見られます.この結果は,現実の時空間スケールをよく説明しています.

他方で,一分子を計測する技術が飛躍的に発展してきており,微小電極を用いてDNA(デオキシリボ核酸)の塩基分子を識別しようといった研究が進められていますが,そこにも我々の研究成果が貢献しています.

研究内容の詳細やその他の研究テーマについての説明は当研究室のホームページをご覧ください.

川野研究室ホームページ http://bnf.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2015/06/15

研究室だより Vol.6 河原研究室

非線形力学領域 熱流体力学講座 熱工学グループ

乱流の骨格
―単純不変解による乱流へのアプローチ―

教授・河原 源太

水や空気などの流体の運動状態は層流と乱流に大別されます。乱流状態では時間的にも空間的にも流れは複雑に乱れ、同じ運動が繰り返されることはありません。水道の蛇口から勢いよく流れ出す水流や煙突から立ち上る煙の渦運動など、日常生活で目にする流れのほとんどは乱流です。

乱流の問題は物理学における未解決の難問のひとつとして広く知られており、その解明は理学的にも工学的にも重要な意義をもちます。乱流が難問とされる理由はいくつかありますが、なかでも、乱流の示す複雑でカオス的な時空間構造の本質をいかにして簡潔に表現するか、は大きな課題です。

最近、我々は、この問題の解決に向け、独自の理論的アプローチを試みています。それは、乱流を支配する運動方程式であるナビエ・ストークス方程式の単純な不変解を用いて、乱流の構造や統計的性質を表現しようとするものです。

単純不変解とは、時間的に変化しない定常解や、同じ運動が繰り返される周期解といった解であり、複雑で多様な乱流に比べ、はるかに簡潔です。この不変解を用いれば、乱流中に隠された単純で秩序をもつ構造やその乱流統計量との関連性を運動方程式に忠実に表すことができます。

単純不変解の一例を図(上)に示します。これは、断面が正方形であるダクトに沿って圧力差で駆動される流れの定常(進行波)解です。図中に赤と青で示した渦構造がダクトの軸に垂直な流れを誘導し(ベクトル線図)、軸方向の速度成分の分布(緑の等値面)を歪ませます。この不変解は、図(下)に示す正方形ダクト乱流の平均速度分布の特徴をうまく再現しています。

単純不変解は、乱流よりもはるかに単純であるにも拘わらず、その時空間構造や統計的性質をよく再現するという意味で、「乱流の骨格」をなすと言えるでしょう。現在、我々はこの乱流の骨格を用いて、乱流の解明と制御に取り組んでいます。

河原研究室ホームページ http://www-thermomech.me.es.osaka-u.ac.jp/

Last Update : 2015/05/13