非線形力学領域 熱流体力学講座 流体力学グループ
液体ジェットの崩壊メカニズムの解明と
微細ファイバー・微小液滴形成への応用
准教授・吉永隆夫,助教・渡邉陽介,清水大
日常よく目にする水道蛇口から滴り落ちる流れは,水量を増やすと下流で乱れのある,長く伸びた流れに変わる.この液体ジェットにおける二つの流れの様子は,それぞれドリッピングモードとジェッティングモードと呼ばれている.
いずれの場合も表面張力の働きにより,流れは不安定化し最後は液滴になる.このような流れの理論的な研究が19世紀にレイリーにより始められて以来,ジェットの大変形を考慮した崩壊から液滴形成に至る詳しい研究が実験・理論の両面から行われてきた.
近年,医薬,化粧品,繊維などの工業分野において,微細ファイバーや微小粒子の需要が高まっている.そのような状況下で,従来の化学重合反応を用いた製品に比べて,液体ジェットの不安定性を用いる手法により,より均一で微細なファイバーや粒子の形成が可能であることがわかってきた.特に,数十ナノから数百マイクロオーダの微細ファイバーや微小粒子の形成に,静電場を用いる手法が注目されている.エレクトロスピニングやエレクトロスプレーと呼ばれるこの手法では,ノズルと電極間に数キロボルトの高電圧をかけ,液体ジェット表面に帯電した電荷の反発力や外部電場による静電力を利用する.
これまで実用化を目的とした実験的研究が主に行われてきたが,多くのパラメータを含むこの複雑な現象を理解するため,電気伝導性の流体力学の立場から,ジェットの安定性や崩壊過程などの基本的な特性の理論的な研究が不可欠である.
最近,我々のグループで行われた解析では,静電場中でのジェットを記述する比較的簡単な非線形方程式が導出され,ジェットの崩壊モードが二つの無次元パラメータで支配されることがわかった.図は,軸対称なジェットの崩壊形状が,パラメータの変化により,先端部に液滴を伴う(a)流体ジェッティングモードから,(b)先端部にマイクロドロップを伴うコーンジェットモードを経て,(c)マイクロドロップを伴わないコーンジェットモードへと遷移する様子を示している.
流体力学研究室ホームページ(http://mars.me.es.osaka-u.ac.jp/)
Last Update : 2014/08/26
機能デザイン領域 分子流体力学グループ 川野研究室
分子流・プラズマ流の数理と応用
―ナノデバイスから医療応用まで―
教授 川野 聡恭,准教授 土井 謙太郎,助教 花﨑 逸雄,助教 辻 徹郎
電子・イオン・分子の運動やプラズマ流(電離気体流)における数理物理的普遍性の究明と先端工業 技術への応用に関する研究を行っています. 従来の流体力学理論の枠組みでは取り扱うことが困難であったマイクロ・ナノスケールの荷電粒子流および分子の特異的な集団挙動を理論と実験の両面から探究します.これらの基礎的知見と数理解析技術を融合し,環境エネルギー関連機器や微小医療デバイスの設計指針を確立することによって,学術のさらなる深化と 直接的な社会貢献を目指します.
ナノ流路内における一分子観察
近年,DNAの塩基配列を短時間低コストで解読するDNAシーケンサの開発に注目が集まっています.将来は,個人レベルでのDNAの解析が行われ医療などへ応用されることが期待されています.当研究室では,このDNAの次世代解析技術につながる,微小構造内における高分子の一分子計測を行っています。 当研究室ではMEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれる、微小構造物の作成技術を用いて,深さが数百nmのナノ流路を作成しました.この流路内にλDNAを流入し,電圧を印加すると電気泳動する様子が蛍光顕微鏡によって観察されました。λDNAは,流路壁面による拘束を受け、流動速度が減少することが確認されました.さらに拘束による影響は,流路の深さが狭いほど顕著に現れることが確認されました.単一分子を取り扱うデバイスにおいては,このような微小空間内で高分子流動の解析が有用であると考えられます.
図 蛍光可視化観察によるλDNA
川野研究室ホームページ http://bnf.me.es.osaka-u.ac.jp/
Last Update : 2013/08/27
TSME(Theoretical Solid MEchanics; 数理固体力学グループ)
尾方研究室 原子レベルスローダイナミクスシミュレーション
ー固体中の原子レベルの長時間現象の理解にむけてー
教授:尾方 成信,准教授;君塚 肇,助教:譯田 真人
結晶金属やガラスなど、固体材料は我々の身近にある工業製品に広く使われています。固体材料の構造や性質は様々であり、これらを原子レベルから理解することは、性質の改善や新たな材料の開発につながります。本研究室では原子シミュレーション手法を用いて、固体材料の中で起きる原子レベルの現象について研究を行っています。 原子シミュレーションでは個々の原子の運動を扱います。このため、多くの原子を含む大きな空間スケールで起きる現象や長い時間スケールで起きる現象を調べるのに困難を伴います。この課題の克服を目指して、本研究室では長い時間スケールで起きる現象を扱うことのできる新たなシミュレーション手法の開発に取り組んでいます。開発した手法を用いることで、従来の原子シミュレーションでは扱うことができなかった、極めて長時間の現象を原子レベルから理解することが可能となります。図は鉄中の炭素原子の拡散の原子シミュレーションで、低温でのゆっくりとした拡散も精度良く求めることが可能です。 原子シミュレーションの時間スケールの制約のため解明が進んでいない固体材料中の現象は多くあります。このような現象を原子レベルから解明することは、学術的に意味があるだけではなく、産業分野への大きな貢献が期待できます。
尾方研究室ホームページ
http://tsme.me.es.osaka-u.ac.jp/
Last Update : 2013/06/26